117 舵に触るな(2006/09/16)
ヨットに人を招待すると
少しヨットをかじった人だと 直ぐに舵を持ちたがり、
ヨットを知らない人でも舵を持つと大変喜ぶ。
それでも僕が艇長のときは「舵に触るな」と意地悪く舵を持たさないようにする。
そのためにはオートパイロットやウインドベーンを付ける必要があるが、
それらを付けなくても横山サバニの船はアビーム(横から風を受ける走り)からクローズ(斜め前から風を受ける走り)までは
長時間手放し直進する素直な船だ。
オートパイロットやウインドベーンに舵を取らせても
それらになるべく負担がかからない様に風力風向に合わせたセール面積の選択とセール角度の調整が必要になる。
オートパイロットだけだと強風になったら警報音を発して風力の変化に対する余裕が無くなり、
ウインドベーンだけだと微風のときにちゃんと働いてくれず大きく蛇行することになる.
ヨットの運航は全て艇長の責任において為される。
艇長の仕事はありとあらゆるヨットの運航上のことに及ぶが、
中でも大切なのがヨットを港から出港させ目的地まで無事に到達して入港させると言うのが一番大切な仕事だと思う。
出入港の細かい舵さばきは艇長の大切な仕事だが、
それを広い海の上でずっとやり続けているのは艇長の仕事ではない。
あえて人が舵を持つとすればそれはヘルムスマン(舵取り)の役目である。
ヨットの定義は「運行目的を持たない船」である。
と言うことはセーリングをするのがヨットではない。
帆で走る船は正確にはセーリングボートだ。
セーリングボートで一番大切なのは風にあった適切なセールとセール面積とセール角度を常に維持し続けること。
それを考え実行するのが艇長の仕事の重要な部分である。
運行目的がないヨットは安全で楽しくと言うのがお客にも艇長にも大事なことである。
雲や風や潮を読みそれらに合わせて帆走るのがセーリングボートであるヨットの楽しみであり
舵にへばり付いて他の運行上の仕事や楽しみを捨ててしまってはせっかくのヨット遊びも台無しになる。
舵を持つのが艇長だとあまりにも操船全体の余裕が無く風が強まったり何か問題が起きたときの対処が遅れる。
ヘルムスマンが舵を取っていてもそれは言える。
ヘルムスマンは大抵はヨットのことがよく解る人がなるので一人の大切な要員を舵を取るためだけに奪われることになる。
出航したら入港寸前まで舵に触らない帆走をやってみてください。
どれくらい余裕が出来るか、
これが同じヨットかと思うくらい周りがよく見え楽しみ方も違ってくると思います。
そして勿論セーリングヨット運行の腕も格段に上がることでしょう。