154 「天城」レストア-1 (2009/10/07)

2009年7月25日三重県五ヶ所湾で初めて「天城」に会う。

古き良き時代を代表する様なスタイルの良い船型の船だ。

デッキに上がってみてびっくりコクピットと船尾部分がほとんど腐っていることが解る。

船尾左側ビット部分は合板が抜け落ちテントをかけているが船内にも雨水が入ったはずだ。
船内はカビ臭くあちこちに腐った部分が認められる。
船内合板は接着剤が剥離し先ず全て入れ替えないとだめだろうと解る。

昔の木造船はこんな形で老化していくのか、
僕が高校生くらいの時は瀬戸内海何処の漁港にも木造伝馬船がいっぱい浮かんでいた。
FRP船が出来て世話をしない瀬戸内海の木造船が無くなったはずだ。

天城は渡辺修治さんが自分のために設計して加藤ボートで造った42年前の船だそうだが、
大切に扱われ何度もレストアされたのでそんなに長期間浮かんでいることが出来たのだろう。
エポキシを使わない普通の木造船は世話をしなくなると10年でほとんどだめになる。

浮かんでいる船では真水がデッキ部分の合板や木に染みこみ 木の栄養と真水がバクテリアを繁殖させる。
一方海水に浸かっている部分は木が海水を吸っても木を腐らせるバクテリアはなかなか繁殖できないので木は元の形と強度を保つ。

だから木造船の世話をするというのは雨が降ると直ぐ後に船に行ってデッキに海水を汲んでかけると言うことになる。
昔 漁船にひしゃくで海水を汲んでデッキにかけているのを見たことがある。

帆船時代の木造船のデッキ隅には水商売でもないのに岩塩を大量に盛り塩する。
塩が雨に溶け出してデッキに染みこむのは塩水となり木部にバクテリアが繁殖するのを防ぐ役目をする。


2009年9月4日天城を工房に運び込んだ。

やる気満々でさて船内の備品を取り外しみんな一箇所に集める。
スルハルも全て取り外す。

そしてバルクヘッドなどの合板を取り外しにかかる。
腐っていてあっという間に崩れ落ちる部分もあるが、
新しく交換した部分なのかまだまだ丈夫なところもあった。

とにかく船内全ての合板部分と部品を外に放り出す。
とんでもない量の木くずが出たが一気にゴミとして捨てるわけにはいかない。
小さく切り取りナイロン袋に入れたり、
角材は松山のゴミ出しルールに沿っておよそ500ミリ長さに切って荷造りロープで束ねる。

ドッグハウス天井合板なども腐っているので全て取り外し。
船尾側のデッキ合板も腐っている部分は取り外す。

コクピットは腐った合板の上で薄くスライスされたチーク材がブヨブヨしていたので全部切り取って放り出す。

一ヶ月以上に及んでいる悪いところを壊す仕事だが後半月もかかるか、
船内・船外の外板もサンディングして本当に悪い部分をしっかり見極め取り替えるつもりだ。
右舷外板は思った以上に腐っている部分が多い。
右舷側が南で停泊していたのか紫外線による老化も考えられる。

面白いことに
ボロボロに腐った外板の リベット部分の木だけがまだ腐っていなくて点々と残っている。
聞いたことはあるのだが実際に見たのは初めて、
銅で出来たリベットの緑青(銅の錆び)がバクテリアの繁殖を食い止めてその部分の木だけが腐っていない。
後の部分は老化したスポンジを壊すようにボロボロと爪で掻き取ることが出来る。

さていよいよ今月半ばから本当のレストア劇が始まります。

初めてのこと前例が少ないことほど難しいが 無理難題を解決していくのは面白くやりがいのある仕事です。

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