158 外洋航海中の珍経験-8(ヨットとゴキブリ)2010/09/17
2010年今年の夏はあまりにも暑かった。
工房の中は35度を超える日が長く続き文字通り頭から汗がしたたり落ちた。
あまりの汗に帽子をかぶって仕事をしていたのでは汗がそのまま落下するので、
頭全体をタオルで覆い汗はタオルに染みこませて外に落とさないようにした。
ヨットに乗らないで工房にこもり仕事ばかりしていたので海の広場の更新もなかなか思いつけなかった(と言うか余裕がなかった)。
何日か前帯広の田中さんLove bird Teruakiに勧められてTwitterを始めた。
別に余裕があるからではなく僕が田中さんに勧めたパソコンを田中さんがやり始め、
その田中さんが勧めるのだからやってみようかという軽い乗りで始めた。
そしたら今まで封印していた昔の思い出が次々と思い出された。
一番最初に思い出したのが航海中のゴキブリの話し。
長期航海のヨットには食料が沢山積み込まれ毎日クッキングをする。
そこにゴキブリが居ないわけがない。
どうやってヨットに潜り込むかというと彼らには羽が生えている。
港に入港中はどこから入り込まれてもおかしくない。
しかし、もっとも多い侵入方法は段ボウル箱に仕掛けられた卵。
そうあの小型ハンドバックの様なゴキブリの卵を産み付けられた段ボールを外国の港で船に持ち込んだらヨットはゴキブリの巣と化す。
33年前の太平洋一周航海の終盤 僕のヨット「鷗盟」(おうめい)は何処かで持ち込んだ段ボールが原因でゴキブリ天国となった。
初めはゴキブリハンドバックから孵った小さなゴキブリをちらほら見かけただけで、
まあ良いか くらいで放って置いた。
それが誤りの第二弾だった。(段ボール箱を船に持ち込んだのが1弾)
南太平洋の暑さであっという間に大きく成長したゴキブリがその辺り中をうろうろするようになった。
最初は昼間は何処かに隠れていて夜になるとチョロチョロ出てくるという感じだったが、
彼らはだんだん大胆になり数を増やし大きくなり昼となく夜となくヨット中を我が物顔で走り始めた。
別に僕と同じ物を食べて大きくなったのだし、
船の中で生まれ育っているのだから悪い病気も持っていないだろうと軽く構えていた僕もだんだん頭に来てゴキブリ退治を考えるようになった。
初めは物理的にひっぱたいて殺し海で水葬というのをやっていたが、
それではきりがないほど次々に子供が生まれ大きいのは6センチを越える物も現れ始めた。
いよいよ頭に来て今度は兵糧攻めを思いつき食料をタッパーに入れたり残り物を出さないようにしたり鍋や食器も綺麗に洗うようにした(それまでは洗わなかった)。
それでもなかなかゴキブリは減らず夜など顔の上を駆け抜けるほどにになってきた。
日本に帰る前の寄港地グアムから日本への航海中 夜中足先に針を刺したような痛さが走って目が覚めた。
体を起こして足先を見るとゴキブリが僕を食べていたのだ。
いくら食料がない仲間が多いとは言え生きている人間をゴキブリが襲うとは考えても見なかった。
航海中ずっと裸で裸足で過ごした僕の足は硬く革質化した部分が多く特に親指の爪近辺は3ミリくらいはあろう革質で覆われていた。
その革質を食べている内についに人間の肉に食いついたと言う事だ。
開けられた穴に血が溜まった。
夜中に頭部分をおおかた僕の足の親指革質に突っ込んだゴキブリを発見したときには痛いと同時に身震いするほどの恐ろしさを感じた。
生き物としてのゴキブリは人間と比べると大先輩。
あらゆる物を食って生きてきたに違いない。
日本に帰り着きヨットのハッチをみんな閉めてベンチレーターも塞ぎ皆殺しの燻蒸をやった。
一件落着とはなったが未だに忘れることが出来ない怖い思い出です。
ヨットに段ボウル箱を持ち込まないこと と言う教訓でした。