161 チークデッキ 2011/02/22

レストア中の「天城」最後の大仕事としてチークデッキを張る。

チークの丸太を板目に製材してもらって仕入れる。
それを端から短冊に挽けば柾目のチーク板が作れるからだ。

今回は丸太を製材したので機械乾燥にかけていない板を買うことになった。
材木屋さんにそんな少量を乾燥機にかける訳にはいかないので今回は乾燥していない板でよろしいですねと念を押される。

そこで僕は22歳で卒業して直ぐにヨット工場に就職仕立てのころ船大工の頭領(小成さん)が木が暴れないように乾燥させるのを見たことを思い出した。
随分昔のことを簡単に思い出したのはそのやり方が非常に変わっていたからだ。

ヨットの木型をトリプルプランキング(三層張り)で作る為の薄い木を工場の壁にずらっと立てかけ毎日乾くごとに水を何度もかけて乾かしていた。
水でビショビショに濡らした木を風と太陽が乾燥させると言う事を一日5〜6回1週間くらい続けた。
僕も興味があったのでどうして乾くの?と聞きながら水をかけるのを手伝った。

答えはよく解らないが昔の人の知恵は凄い。
実際に製材して直ぐよりも何度も水をかけて乾かした後の方が手で持っただけで解るくらい軽くなっている。


チーク材の良い点はとにかく腐りにくい。

僕が聞いた話では、
木が生きていた時導管を伝って根から吸い上げていた樹液が固まるとチーク材の場合硅砂という石になるらしい。
おまけにチークは極端に油分が強い木です。

夕方暗くなってチーク材を製材していると丸鋸の刃から火花が飛んでいるのが見える。
それは丸鋸の刃が硅砂という白い砂のような石に当たっているのだから火花も出て当たり前だろうと納得。

油分と硅石と木質から成る木だからチーク材は圧倒的に他の木よりも腐りにくい。

大英帝国が世界を制覇するために無敵艦隊を作ったがその時に占領するごとに新しい領地のチーク材を切り倒して大型帆船を作り続けたので、
世界のチーク材が無くなってしまったと言われるほどだったそうだ。

そのくらい昔はチークは船造りに欠かせない木材だったのです。

今では新素材のFRPやカーボン・エポキシなどが出てきて腐りにくくなっているが、
それでも雨風にさらす木部にはチークを使う。

特にチークデッキはヨット乗りにとって憧れの的なのです。


チークデッキの良いところは

デッキを歩く時に滑りにくい。(FRPのデッキはノンスリップ加工という砂をまくような加工をしないと滑る)
保温効果があり夏は涼しく冬は暖かい。
真夏焼け付く太陽の照り返し光が和らぎサングラス無しでワッチが出来る。
なんと言ってもチークデッキは見ていて心安らぐ。

チークデッキの悪いところは

値段が高い。(ヨットの船大工がほとんど居なくなってしまった今チークデッキを張ろうというのは知らない寿司屋に入って時価の寿司を注文する様なものでしょう)
そして今までの木ネジ止め木栓打ち込みの工法だとチークデッキ下の合板が腐り船の寿命を縮めます。


木ネジなどの金属と木が接する所が雨漏りもないのにどうして腐るかと言うと、
木と金属は材質が違うので温度変化で木の中にある水分を金属が結露して自分の周りに集めるのです。
その水が金属と接する木の中に吐き出され木と水が接するとそこにバクテリアが発生し合板だとその部分は木の目に沿って四方に広がり合板を腐らせていきます。

せっかく綺麗なチークデッキにしても船の寿命を縮めたのでは意味がありません。

チークデッキ張りの値段が高い原因はチークそのものが日本に自生しない世界でも少なくなっている木なので高い、
それと同じようにチークをデッキに貼り付ける特殊で強力な接着剤シーカフレックスも非常に高いものです。
それに輪をかけてヨット大工の人件費はと考えるとチークデッキ張りが高いのはどうしようもありません。


僕はチークデッキ下の耐水合板を腐らさないためと人件費を抑える意味でも今回は木ネジ止めを止めました。

チークデッキ張りは先ずチーク材をシアーに合わせてドッグハウスコーミングから突っ張りをして曲げつける。
曲げたものが上に跳ね上がらないように天井からも突っ張りをする。
そうして押さえ込んだチーク材が張れることを確認して張る部分を型取りしチークを取り外します。

取り外し型取りしたデッキとチーク接着面をアセトンで拭きます。

その後エポキシ(インタープロテクト)加工しているデッキにはシーカプライマー215を塗ります。

チークの接着面にはシーカプライマー290DCを塗ります。

両方とも布拭きの後乾かします。

その後デッキ面に泡が入らないように波形にシーカフレックス298(チークデッキ接着用のソーセージ型肌色シーカ)を置く。

そして最初の手順でドッグハウスからの突っ張りと天井からの突っ張りで元の位置にチーク板を留めます。
ここまでで今回は一日の接着を終わりにしたのです。

続けてやろうと思えばチークデッキに木工ギリで木ネジを打つ穴を開け木ネジで下の合板へ固定する。
木栓を打ってその頭を切り取る。
と言う仕事が増えます。
一日で左右一本ずつ張るのがやっとで続けてやることが出来ないくらい時間がかかりました。

チークの本数から16日で「天城」のチーク張りを終えているのが解ります。

おまけに木工ギリで穴を開け木ネジを打ち木栓を打ち込んで切るという作業をやっていたのではまだまだチークデッキ張りは終わっていなかったでしょう。

残る仕事は はみ出してシームに注入したシーカフレックス290DCのサンディングとチークデッキを守る新商品の塗りです。

チークを製材した日から見てもこれは非常に早い日数で今回「天城」のチークデッキ張り人件費は時価の握り寿司までは行かず、
上握り盛り合わせくらいで済んだのではないかと思います。

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