178 無理難題解決係 2013/05/07

ヨット(クルーザー)では短いながらも生活があります。

短いときは数時間 働いている人でも休みが有れば土日一泊二日とか 長ければ太平洋横断2ヶ月とか 世界一周とかの航海です。

ヨットは動く家のような物だと僕は思って居ます。

キャンピングカーの様に毎日でも人に会う事が出来必要な物を調達したり 壊れたら直してもらったり出来る環境とは違うところがヨットの醍醐味だと思うのです。

何か問題が起きたらとりあえずは次の港に入るまでは自分で解決しないといけません。
又、ヨットは問題が起きるような環境にあります。

ブレーキもなくて何時も浮かんでいる海の上で マストを立ててセールが主機で小さいエンジンを補機に雨 風や霧・はたまた照りつける太陽の中 道のない所を進むのです。
海面を進めば自分の後に航跡が残るののみです。

ヨットで大切なマストやマストを支えるワイヤー等は時々点検していても問題が起きる箇所で、
何かあれば動きが取れなくなる重大な問題が起きます。

又エンジンも普通海水で冷却しているので車のエンジンなどより圧倒的にトラブルが多いと思います。
もう一つの原因は海では常にエンジンを一定回転で長時間回し続けると言う過酷な使い方にもトラブルの原因が有ります。

おまけにプロペラやプロペラシャフトも一度取り付けたらそのままという訳にはいきません。

トイレやギャレーも海水と真水の水回りの問題があります。

電気系統も回りが海で湿度100%の悪条件ですから問題が起きるのは当然です。
航海計器などは修理不可能な電子器機で普通の人では手の着けようがありません。
たとえ壊れた場所が解っても海の上では部品が手に入らないというのが問題です。

船体に至っては問題が起きたら(壊れたり水が入ってきたりしたら)命に関わる重要な所です。
自然から 裸で頭でっかちの人間をしっかりと守る シェルターです。


西欧で船が女性名詞だというのは 古くから船を持つのは問題を抱え込むような物だと言う教えからかもしれません。

それはさておき

僕はヨット屋になったと言う事は 海で起きる無理難題を解決する係りになった様なものだなと思います。
船体のこと マストのこと エンジンのこと 水回りのこと 電気のこと 自分がヨットに乗るので無理難題を突きつけられては解決してきたのでだんだんと解ってきました。

仕事として無事に帰ってきた船や今から出ていく船の問題をオーナーの要請に応えて解決していくと言う事が出来るようになって来ました。

22歳でヨットの世界に飛び込んでほぼ40年やっと全体が見えて来たなというところです。

どんな無理難題を押しつけられても解決するぞと言う経験を積み重ねてきました。
僕が得意なのは木工とエポキシ接着それとFRPのモールド作りですがそれ以外の得意でない分野も解決できるだけの経験と解らない所は補ってくれる人脈が出来ました。

工房スペースを構え 工具を揃え 材料を持ち ヨットに関するあらゆる無理難題に挑戦出来る知識を手に入れた つもりですが、
いよいよと言う所でバブルも崩壊しヨットの世界は低迷の一途をたどっています。

国によって多少の違いはあるでしょうが世界中がほぼ同じ様に動く経済の中で不要不急のヨット界は沈没しそうです。
将来に希望が持てない国の子供達の目はぼんやりとしており
発展途上と言われる国の子供の目は光り輝いています。

若者がヨットはおろかあれほど宣伝費をかけても車にさえも見向きもしなくなったと言う日本はどうなるのでしょう。

今や年寄りばかりになってしまったヨット乗り達は経験で得た知識を次の世代に受け渡すことも出来ず集まれば老人施設のようなヨットライフを過ごしています。


僕の仕事であるヨットの無理難題解決係というのはヨットでの生活全般に渡り あらゆる知識と創造力とおまけに体力も使う仕事で、
苦しいのですが均整が取れて人間の能力を自分でコントロールでき実に楽しい仕事でもあります。

前例が少なく創造的な仕事ほど楽しいと言います。

しかし、ヨット乗りの僕としては先人を見ていていよいよ残された時間が少なくなってきたなとひしひしと感じます。
貧乏はふとしたことや努力や気の持ち方から何とかなることもありますが 時間貧乏は努力や幸運ではどうしようもない差し迫った問題です。

あらゆる無理難題解決を楽しみながらもう一度キラキラ輝く子供達の目に会いに行きたいものだと思います。


海の広場に戻る

homeに戻る