2000/8/28  ヨット工作法

 ヨット工作と言えば横山晃(よこやまあきら)さんが26年前に書かれた「新 ヨット工作法」という本が、アマチュアビルダーにとってのバイブル的存在です。基本の基本はこの本で殆ど言い尽くされています。

私はこの本をバイブルに20年前くらいからアマチュアビルダーとして次々にヨットを作り腕を上げてプロとして独立した者です。しかし、世の中の進歩と材料の進歩で現実と合わない部分がいくつも出て来ています。ハウツー本とノンフィクション本大好き人間の私としては、そろそろ新しい物に書き換えて欲しいと思うのですが、本業がヨットの設計の横山さんにはちょっと難しい注文かなとも思います。

ヨット作りを目指す人は、回り道をしないで完全に本の通りやればヨットができる本が欲しい訳です。本当は造船所に職人を育てる力が残っておれば、造船所に弟子入りして現場で鍛えられるのが最高に近道だと思うのですが、FRPに駆逐されて造船所にもまともな職人は残っていませんし、現在のヨット造船所にはそれを一から育てて行く力も温存されていません。丁度大手建て売り住宅のシェア−拡大で本物の大工が駆逐されて今や弟子を育てている大工は数える程しか居なくなった家大工の世界と似ています。腕が落ちて、また腕が有っても発揮出来ないでその日の日当にのみ走る大工さんが殆どです。そうで無いと食べていけない様な市場ですから仕方の無い事なのです。営業能力に劣る大工さんは大手ゼネコンの傘下に入らざるを得なかった、従って弟子を育てる余裕は無かったと言う事です。

ヨットの船大工はもっと悲惨です。小さいシェア−を小さい造船所が分け合っていた所に、比べ物にならない大手の会社が、格段に安いFRP船を投入して来たのですから、100年かかってやっと欧米なみになっていたヨットの造船技術はあっという間に廃れてしまいました。だれにも引き継がれないまま、25年も経てばその技術はおしまいです。私が独立して15年の間にも10人を下らない人が弟子にして欲しいと言って来ましたが、そんな余裕は無かったのです。お金はいらないからと1ヶ月居座った人も居ましたし、実際に2年間真面目に弟子としてヨット作りに励んだ人も居ます、しかし私くらいの腕になっても食べていける保証は無いのですから、ヨットビルダーの世界に光明は無いと言う事でしょうか?

採算を度外視して作りたいから作っている様なヨットビルダーしか存在出来ない様なヨットの世界ですから、これから先も木造船の作れるヨットビルダーは少なくなる一方なのでしょう。木造船が作れない人にはFRP船の型も出来無いので、一握りの船大工は残る様な気はしますが、それも外国艇の輸入で日本産のヨットが圧倒的に減少していますから、将来はどうなるか解りません。

バキューム工法やカーボンプリプレグ工法等新しい技術がどんどんヨット先進国で開発されて日本にも入って来ますが、一番大切な何も無い所から現図を引いて一からヨットを作る技術が廃れてしまってはどうしようも有りません。まともなヨットが作れる船大工が果たして日本には何人くらいいるのでしょう。時間的に先が見えて来た私にとっての最大の悩みはこのままでは日本にヨットを作る船大工が居なくなってしまうのでは無いかと言う事です。

だれか新々ヨット工作法を書いてくれませんか。人知れずヨットをコツコツ作る自作の世界にヨット工作の達人は現れる様な気がしています。

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