186 僕が木造ヨットを造る訳(2013/09/20)  

24歳の時初めて僕が手に入れた「鷗盟」(おうめい)と言うヨットは25フィートのFRPの船だった。
その「鷗盟」で冬の北太平洋を一人サンフランシスコへ渡った。

冬の北太平洋は低気圧の墓場と言われるくらい荒れる。
太平洋横断2ヶ月くらいの予定が一ヶ月走った太平洋の中間くらい日付変更線付近でステーが切れマストが折れ
た。

ブームをマストの位置に立てメインセールを真ん中当たりで横に切って縫い付け四角な帆を作りジュリーリグで日付変更線から3ヶ月かかってサンフランシスコに着いた。
10月終わりから翌年2月まで120日にも及ぶ荒れて冷たい航海だった。

その時長距離航海をするヨットは木の船でなければと確信した。

FRPのヨットと木のヨットの違いはFRPは歪んで外圧に耐える一方きちんと造られた木造ヨットは硬くて歪まない。
それを身をもって体験したのが荒れ狂う冬の北太平洋航海だった。


 

最近のFRPレーサーなどもマストを支えるステーをこれ以上締まらないという所までがっちりと締め上げてレースに臨むが、
風下ステーはいくら締めたつもりでも風をはらんでヒールするとダラダラに緩む。

緩んだステーがターンバックルの上スエージの当たりでカックンカックンと揺られているとその内ステーの素線が切れる。
ステンレスは繰り返し動いている部分には使ってはいけない粘りのない素材なのです。

僕の「鷗盟」のマストが折れたのはFRP船体全体が歪んでいてステーが緩みマストを支えるワイヤーの素線が切れかかって居るところに何度もヨットが大波で横倒しになりマストに強烈な水圧がかかったからだ。

もう一つFRP船体が歪んでいると感じたのは大波の船体への激突でドーンという音とともに船体がブルブルッと震えるのがワンテンポ遅れでコクピットに座っている体に伝わってきた。

補強のためのバルクヘッドや仕切り板やインナーハルに取り付けてある木の飾り板や棚材等がヨットが波に突っ込む度にギーギー ガタガタと今にも壊れそうな音を立てた。

その僕の「鷗盟」は 0号艇で量産のテストケースとしてFRPも設計より厚く積層され、
しかも太平洋横断を目指してからはマストを支えるワイヤーを固定するチェーンプレートなども量産艇とは違った特別な補強をし、
マストサポートすぐ前のバルクヘッドも圧倒的に補強したヨットだった。

そんなヨットでもまあ波で船体が破壊されると言う事はなかったが、
長時間長距離の航海にはFRPヨットは向かないなと感じた。




その後メキシコから目的地エクアドルのガラパゴスまで航海し、
南太平洋の島々をマルケサス諸島・ツアモツ諸島・ソサエティー諸島・サモア諸島・ギルバート諸島・マーシャル諸島・マリアナ諸島の小さな島々を巡って1年10ヶ月の航海26歳になって無事日本に帰ってきた。

ちなみにホームページ台紙の色は南太平洋の楽園 ツアモツ諸島のAhe島 環礁内の海水の透き通るような色です。

北太平洋以降の航海でも思ったのですが、
長時間FRPに囲まれて暮らす訳にはいかないからFRP船でも船内は重くなるのを覚悟で木を使おうとする。
チーク合板を張ったり 下手をするとプリント合板だったりする。

最近はシックハウスと同じ様に新艇はしばらくしっかり換気しないと船内に居れないくらいホルムアルデヒドが漂う。

短時間しか船に滞在しないし勝つことが目的のレース艇は別にして、
クルージング艇ではそんなにしてまでFRPのピカッと光った面を隠そうとする。



とにかく僕のヨットは木でなくてはいけないと考える様になってさあ木のヨットを造ろうと思ったのですが、
全く木の造船に関しては素人の僕には直ぐに欲しい様な船を造れる訳がありません。

木造ヨットを造る技術を手に入れるためにヨット最後進県の愛媛県松山市にこもり食うや食わずでディンギーを30艇以上も作りました。

若くて怖いもの知らずだったから出来たことです。




確信を持ってクルーザーを造るようになりダブルプランキングやトリプルプランキングの本物のウエスト工法ヨットを造れるようになってやっとこれが目指していた木のヨットなんだと言えるところまで行き着きました。

船体強度材として木ネジやボルト・ナットは一本も使いません。
全てエポキシ接着で出来た船体(デッキも含む)です。

口の悪い友人は僕のことをエポキシ大工だと言います。
その通り、僕ほどエポキシ接着をやり続け木ネジもボルトナットも使わず船体を作り実際の航海でサイクロンに巻き込まれてその強度を試したというヨット大工は知りません。

昔の木造船のように船体に強度材としての木ネジやボルト・ナットを残さない訳はハードスポットがなくなり全面接着で非常に軽くて硬い壊れにくいピンポン球のような船体になります。

殆ど歪みがないので波の体当たりもFRPヨットのようにビヨビヨと歪みません。
登りの時風下側のステーも緩んでダラダラになったりはしません。

後は紫外線や雨風に対するメンテナンスをどのくらいやるかで50年保つか100年保つか解りませんが、
メンテナンスフリーと言う触れ込みで放ったらかしにして30年も経つと強度が新艇時の半分というようなFRP船よりはましだろうと思います。

今までは強度に重点を置いていたので塗りや見栄えは二の次でしたが、
塗りの大切さを今の僕のヨット「花丸」で時が経つほどに痛感しています。

見栄えの大切さもその内解るかも知れません。
綺麗な船はオーナーも大切にしてくれる。

機能美と言う所まで行くかどうか解りませんが、
さしもの大工が造ったピカピカの木造ヨットとヨット乗りが造った木造ヨットには明らかに違いがあります。

 

 

これが僕が木造船を造る訳と今の状況です。


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