2000/9/13 夢を売る

私のやっている仕事はヨット作りです。免許も認可も何もいらない実力だけの世界です。私がヨットを作るのは私自身ヨットが非常に好きだからです。本当は乗る事が一番好きな事で、次が作る事です。乗る事も仕事にした事が有りますが一番好きな事を仕事にすると逃げ場が無いので、2番目に好きな作る事を仕事にしました。芸術性は全く問われない機械加工の様な仕事だと思っています。それでも乗れる人が作った船と、乗れない人がただお金を儲ける為だけに作った船は違います。押さえる所はきちんと押さえて、どうでも良い所は手を抜いて、商売ですからお金とも相談しながらできる限りよい物を作るのが私のヨット造りです。アマチュアビルダーだった期間も含めると18年間ヨットを作って来て、やっと大切な所とそうでも無い所が解る様になりました。ヨット作りはお手本の少ないフロンティアの世界です。がむしゃらに良いヨットを作る事だけを目指して利益を度外視して突き進んだ時代はもう終わりです。今から残り少ない仕事期間を値段と残された時間に相応しい物作りに使おうと思っています。昔は100年持つ船を目指していましたが、今は30年です。100年持ってはオーナーも変わるし、日々進歩しているヨットでは、骨董価値も出ないのです。他の物とは違う命がけの遊び道具ですから。


 受益者と言うか消費者が賢く無ければ、それに見合った物作りしか現れないと言うのはどの世界にも言える事だと思います。真直ぐのキュウリ、虫食い一つないキャベツや白菜、安いだけの卵、必要でも無い物が沢山付いた車、公害をまき散らすエンジンが大きくて速い車、ファッションだけを追いかけた衣服、あっという間に建てられてシックハウス症候群を生み出し人間を拒否しておいて、しかも短期間に壊される家、衣食住どれ一つとってみてもこれはまともだと言える物が少ないのは、消費者に問題の半分以上は責任が有ると思います。しかし、富める生産者は情報操作によって生産し易い物儲かる物を作ろうとしたりもします。私はそれらの事をよく調べた訳では有りませんが、単純明解なヨットを通してそれらの事が良く解ります。生産者は売れない物はいくら作りたくても作れないのです。物には値段は無い。生産者と消費者のTPOによって、値段はその時その場で決まる物だとやっと理解しました。私の仕事は高いと良く言われますがそれは比べるものが有っての話です。プラスチックのヨットと木のヨットは全く違う物なのです。例えばプラスチックやステンレスの浴槽の中で1ヶ月とか1年とか生活出来ますか?おそらく気が変になるのでは無いでしょうか。私はチョコッと週末を楽しむ為のヨットを作っている訳では有りません。そこに生活が有る住めるヨットを作っているのです。それを望む人はそれなりのお金を出さなくてはいけないと言うのは当たり前の事だと思います。私の商売は夢を売る事なのです。私が作るのは特別大きなレースで速い船でも無いし、皆でわいわいガヤガヤとお酒を飲む為の船でも無有りません。ヨットに魅せられた底辺のヨット乗りが1人で、又家族やごく親しい友人と日常を離れて自然と親しむ為のできれば心地よい時間を持つ為のヨットなのです。親が子供にやらせたい商売は、医者、弁護士、大学教授、等等お金が儲かる商売が上がる様ですが、私の場合はちょっと違います。できる事なら免許等通用しない何処にも前例のないどのカテゴリーにもあてはまらない様な仕事をして欲しいと思います。せっかく生まれて来たのですから、せめて24時間の内の8時間を売る様な仕事にはついてもらいたく無いと思っています。子供に勉強しろ勉強しろと言う世の親は、職業選択の範囲を広げているかも知れませんが、その子の将来の安定収入を望んで得られたとしても、その事はその子の幸せとは関係の無い事なのです。ましてやその事によって失われる子供の可能性ははかり知れない物が有る様に思います。


 その他にもヨットを通じて色々な事を学びました。国粋主義のいかに時代錯誤かと言う事もその一つです。伊予の国の池川富雄等と言うのは、江戸時代だったら通用したかも知れません。今だったら可笑しくて皆さん笑ってしまうでしょう。国旗や君が代に力を入れている江戸幕府の様な日本政府を笑わずにおれますか?日本がオリンピックの金メダルをいくつとった等と言うのは個人に帰されるべき事で、国とは関係の無い事にすべきです。今は明日にも滅びるかも知れない地球で日本の池川富雄も通じない。世界の中の個人と言う所まで来ています。インターネットであらゆる情報が国や団体の管理を振り切って、生で行き来している世の中です。1人1人がそれに相応しい理解力や判断力や行動力を身に付けて居ないと、世界中の個人の思いがメディア(と言う事は政治屋やそれを操作している受益者団体)に操作されて折角の広範な情報も生かされずに終わるようでは勿体無いと思います。特に地球警察を自認してると言うアメリカのやり方は、日本にも大きな影響力で迫って来ますが、それをはねかえすのは日本と言う国では無く今や個人個人の自覚にかかっている様に思います。だって太平洋の人口10万そこそこの国がアメリカからの独立を勝ち取っているのを見ても、今の日本の状況はおかしいですね。


 最後に私の夢は子育てが終わったら、自分の作った船でヨットにとってはまだまだ広い地球に抱かれて残された時間を使う事です。私にはだんご三兄弟の様な男の子が3人居ますが、3男が20才になったら仕事を辞めて航海に旅立とうと思っています。残された時間は後6年しか有りません。こんな夢を追っている人は世の中には沢山いるのです。夢で終わる人は周りが行かせてくれない人、自分が行こうとしない人、それぞれに色んな理由を付けて出航出来ない人が99.99%です。同級生の大学教授になった友達に、酒の席でお前は世の中の為に何をしているのかと言われて、お前よりましだ。としか答えませんでしたが現実の中から抜け出て来れない友達には、夢を売っている私の商売は理解出来ない様です。自分と言う者の存在に始めて気が付いた時に一体私は何の為に世の中に出て来たのだろうと言う、大人になって語ると恥ずかしい様な疑問を今でも持ち続けている少年の私です。頼る物は何も無い今まで出て来た偉大な宗教者もその疑問を解いてくれない。それではゴキブリの様に日々長生きして子孫を残して行くだけです。ちょっと初めから考え直す旅も素敵だとは思いませんか。


 私のヨットに関する考え方をもっと知りたい方は、ヤフーで池川ヨット工房を検索して、ホームページの「海の広場」にアクセスして下さい。これからもどんどん更新して行くつもりです。人と比べたり争ったりしない、スポーツでも無い記録も残らず声も小さい、殆ど目立つ事のないヨットの底辺の在り方を書いているつもりです。独立自尊のヨットの世界って素敵ですよ。幸せは何処にでもごろごろ転がっています。今を精一杯生きる事を実践して行きたいものです。

この文章は「瀬戸内法律事務所」の事務所だより『水平線』vol.28の為に書いたものです。

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