207  北海道の自作者

北海道から30フィート(9メートル)木造ヨットの自作者 岡本さんが訪ねてきた。

狭いヨットの世界のもっと狭い自作の世界なので話していると知り合いの名前がぽんぽん飛び出してきた。

時間が限られているので無駄話は殆どしないで事前に送られてきた資料を見ながら一つ一つ質問に答えていくという方式を採った。

僕は長年に渡り何艇もヨットを造ったり修理したり時にはレストアしたり、
FRPの型を作ったりあらゆるヨット工作に関することを手がけたので遠い昔の自作者だった初期の疑問を忘れていた部分が蘇りフーンと改めて頷くようなところがあった。

海の広場には自作に興味がある人も沢山閲覧に来て頂いているので一つ一つの話し合った問題を列挙していくことにする。


①外板接着について

図面で外板接着にタッピングビスを使えと書いてあるがどうやっているかという質問には
タッピングでなく目の粗い木ネジで丸頭・直径の太い・ステンレス木ネジを使うようにと教えた。

木ネジだと首の部分はネジがないのでねじ込んだ時に下の木に上の木を圧着する効果が期待できる。

当て板などせず、下穴も開けず直接馬力のあるエアーインパクトドリルで打ち込むことも作業性が良くなりスピードアップに繋がる。

実際に僕が使った2種類の長さが違うステンレス木ネジ見本をあげた。


②塗装について

最後の外板仕上げは低粘度エポキシでダイニール加工又はガラスクロス加工を施し硬化したらインタープロテクトという水中でも使えるエポキシ塗料を塗って仕上げるというのが良い。

インタープロテクトは特に防水効果を狙った塗料なので一回ごとに硬化させて表面をサンディングして次を重ねて塗るという作業が少なくとも3回必要になる。

その訳は塗膜には必ず目に見えないピンホールが出来ており、
1層目・2層目・3層目と硬化させながら表面をサンディングして塗重ねる事でピンホールをずらして水が通過していくのを防ぐ。

これをしないといかにインタープロテクトが優れていると言っても何年も水に浸かっている内に内部に水が浸透してくる。


③フィンキール(バラスト)の木型製作

設計ではバルブフィンキールで鉄の鋳物だが自分が製作できるかという質問でした。

ヨットを作る事が出来る人に作れないわけがないと答えましたが、
鋳造所と綿密な打ち合わせをしておかないと砂型に鋳込んだ時の脱型角度が必要になると言う話しなどをした。

僕は鉛でも鉄でも何度も発注したことがあるので今では作った木型を持っていくとそのままクレーム無しで鋳込んでもらえるようになっている。


④バラスト固定ボルト穴およびワッシャー

バラストの途中に横穴を開けて鋳込む中子という方法を実際に鋳鉄バラストを鋳込んだ時の実物をお見せして説明し解ってもらう。
僕はすっかり忘れていたがこれは鋳物屋さんに教わった方法だ。

バラスト天面から鋳込んだ時に出来る横穴に向かって金属加工をお願いしてキリで穴を開けてもらう事にすると良いと伝える。

中子という聞き慣れない鋳物屋さんの専門用語が理解できない人で自作をする人は僕の所へ見に来て下さい。
文章で教えるのは難しいです。

 

それからバラストをキールに留めつける船内側のワッシャーですが図面通りでは全く強度不足なので(キールが裂ける恐れがある)
1メートルくらい有るL型金属チャンネル材を逆さまにしてキールを左右にまたがり船体にも持たせるようなワッシャーとは呼べないようなワッシャーで固定する方法を教える。

もちろんL型の船体側には先に補強の木を接着しておきます


⑤プロペラシャフトの管導材を通す穴開け方法

穴を開けるのはホールソー・や鉄鋼錐・木工錐など考えられるが先ずは管導材を作る時に貼り合わせにして先に半丸の穴を開けた物を接着する様にして管導材を作ると良いと言う事を教える。

導き穴ではなく必要な大きさの穴の半分を先に掘っておいてから接着すると随分手間が省けるだろう。

もちろん船内側のシャフト入り口も半分にして穴が出来る様に接着すると良い。

 

北海道は他の地方と違う事情がありシャフトブラケットを使って船体からシャフトブラケットまでに空間が出来るのは良くないそうです。

港の中まで昆布が多くたとえ船体出口からブラケットまででも昆布がシャフトに巻き付くと始末が悪いのだそうです。

そういえば花丸で函館港に入港した時アンカーが効かず何枚もの大きな昆布がアンカーの先に突き刺さって上がってきた事を思い出した。


⑥舵金具の製作

今は船体製作が寒さのためストップせざるを得ないので舵金具を発注して小物の舵から作ろうと考えるそうですが、
舵金具は何所に発注すれば良いかという質問でした。

やっぱりアマチュアビルダーだなとそこで思いました。
業者がが長年培ってきた仕入れ先を教えるわけがないというのはすぐに理解してもらえました。

大漁の漁師さんに釣れるポイントを教えてくれと問うようなもので決して教えてはくれないでしょう。

僕はそんな了見ではないのですがおそらく僕が発注している特殊金具を作ってくれる業者はアマチュアビルダーがいきなり行っても相手にはしてもらえないと思うのです。

と言う事で僕を通して発注したいと言うことです。

もちろんアマチュアビルダーが頑張っても手に入らないものですから出来るだけ安く良い物を手に入れてあげようと思っています。


⑦船体の反転について

岡本さんの工房は自分の30フィートを作る為に建てたそうで、
鉄骨で丈夫に造り天井にチェーンブロックを4個かけて片側を出していき片側を引き込んで徐々に反転させるというのを僕のホームページから知っていました。

しかし、反転の途中でごろんとひっくり返ったら困るなあと言うような話しでした。

僕が不要な布団や毛布を引いて一度地面にあずけいきなりひっくり返らないように高い位置からロープを取って固定しておき、
持ち上げたチェーンブロックやベルトをずらして再び持ち上げるんですよというとすぐに理解した。

 

もちろんモールドから外す時には船体が広がったり縮んだりしないようにシアー部分に横木を何本か取っておく必要がある。

 

 

以上が箇条書きの事前質問に答えた内容でした。

 

 

 

次の 208 では「花丸」に岡本さんを案内して聞かれた質問や聞かれもしないのにこうした方が良いよとお話しした事などをまとめてみます。

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