216  ワイヤースプライスとスエージング (2016/12/13)

「花丸」は普通のヨットではスエージング加工をするマストを支えるワイヤーの端止めを手でスプライスしている。

僕はスエージングマシンを持っており1×19という最も素線数の少ない強いワイヤーをスエージング専用ステンレスパイプに差し込んでおいてスエージする事が出来る。

1箇所のスエージングにかかる時間はセットも入れてほんの5分ほど、
「花丸」の2本あるマスト分全てのスエージングを考えても一日あれば充分終わらせる事が出来る。


ところが「花丸」の設計を横山晃さんに依頼した33年前は世界中をヨットで航海するにはワイヤー加工はスプライスの方が良いと僕は考えた。

それより以前25歳(40年前)で真冬の北太平洋をサンフランシスコまで走り日付変更線近くでマストを折ったという苦い経験がある。

そのマストが折れた時の状況が強風でFRPで出来た船体が歪んで風下側のステーが緩みいつもブラブラするような状況で、
いくらターンバックルを締め込んでも風下のワイヤーがブラブラする状態は直らなかった。

いつもカクン・カクンとスエージング部分の入り口とワイヤーが折れるような動きをしていて、
本当にワイヤーの素線が一本切れているのを発見した時は既に遅かった。

荒れ狂う海で補強の手段も無くマストを折ってしまった。(一応手は尽くしたが及ばなかった)

だから力がかかると歪んで壊れないというFRPの船体は駄目だと思った。

歪まないウエスト工法トリプルプランキングの木造艇で、
マストを支えるワイヤーはスエージングではなくスプライス加工で作らないといけないと思った。


昔は自分の位置を知る手段は天文航法だし、

通信手段は無く、交通の便は悪くて南太平洋には一年に一度しか通船が来ないような小さな島も沢山あったのです。

そんな島ではステーが切れてマストが折れたら自分で修復できる能力が無ければそれでヨットの航海は終わりです。

初めて単独世界一周をしたジョシア・スローカム船長の「スプレー」というヨットは、
木造船でガフリグ2本マストのヨール型ヨットだったのです。

もちろんマストを支えるワイヤー類はハンドスプライスで出来ていました。


ほんの40年か50年前までのヨットの単独長距離航海では卓越した航海の能力と ヨットを維持する技術が必要でした。

だから僕はヨットそのものを造れるようになりそれを維持する能力を身に付けないといけないと昔強く思ったのです。

ところが、今では天測も必要なくなり通信手段も手紙からアマチュア無線か衛星電話へ・交通手段も船から飛行機へどんどん進化して、
船体に問題が起きればSOS信号を出せば何所でも助けが来る。

部品が不足すれば衛星電話を通じて注文しておいて次の寄港地で受け取ることも出来る。

現金は持っていなくてもカードで何所でも買い物が出来る。

ほんの短時間に何所でも何時でも何でも手に入る世の中になりました。


だから、今度のワイヤースプライスは全くの趣味の域です。

まあヨットそのものが趣味で何の御利益も無いものですから楽しんでやろうと思っています。

専念できるヨットがあり、何も考えないで額に汗して働け、少しでも周りに貢献できて生きていけるのを有り難いなと思います。

 

目的を持たない船のことをヨットと言います。
 

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