217  エンジン整備(ロバート・シェラ−さん) (2017/01/29)

「花丸」のエンジンは12年経ちます。

2850時間ほど使っていて全く問題のない物ですが、
長期航海に行くにはそろそろ点検整備の時期だと思っていました。

車で言うと10万キロくらい走ったという所でしょうか。
僕の勝手な計算ですが、車がエンジンを駆けている時間の平均速度を時速35キロとすると100000キロというのは

100000キロ÷35キロ=2857時間
と言うような計算になります。

ディーゼルエンジンなので車では10万キロくらいは全く問題無いのですが、
舶用エンジンは一度に何時間も巡航速度でアクセルを一定にして走る(車で言う高速道路を時速100キロでずっと長時間走る)と言うような使い方をします。


そんなときにエンジンの整備をしてあげましょうかと言ってくれたのがロバート・シェラ−さんというアメリカ人の宣教師です。

彼は松山ボートセンターという僕の家から歩いて行ける距離に自分のヨットを持っています。

随分前から時々見かけていて知ってはいたのですが、
急接近したのは僕がレストアした「竜王」の海水に浸かったエンジンを引き取ってもらってからです。

ピストンが錆び付いて全く動かずヘッドを開けてエンジンを見てくれた松山で一番エンジンが解ると僕が思っているエンジニア(大野さん)がこれは直すのに新品を買うほどお金がかかりますよと言われ、
オーナーと相談の結果くず鉄として売る話しになった。

そのエンジンを3万円でロバートさんが買ってくれて自分のヨットの2GMエンジンと載せ替えたそうです。

しかも、直接冷却だった3GMエンジンをヤンマーから部品を買って間接冷却にしたというのですから驚きでした。


僕は花丸のエンジン整備をしなければいけない時期だなと思っていたので、

信頼の置けるエンジニアや松山ヤンマーに声をかけていたのですが、

それより先にシェラ−さんが僕が花丸を整備している所をわざわざ訪ねて来てくれ、僕はエンジンが大好きだから無償で整備してあげますよと言ってくれたのでした。

エンジニアになろうと思ったのだが神が神父になれというので仕方無く神父になったと言うのもまんざら冗談ではないようです。

無償でと言うのも嬉しかったが、
プロに整備してもらうよりもアマチュアなので整備中に横に居て、しっかり見たり聞いたり手伝わせてもらったり僕自身のエンジンを見る目を養えると思ったのです。


実際にその通りになりました。

シェラ−さんはアメリカ人の少年はガレージで育つと言う典型的な人で、
とにかくエンジンが大好き小さい頃から何台ものエンジンをばらして組み立てて動かしたそうです。

先ずエンジンヘッドカバーを取り外し、
燃料噴射装置を外してエンジンヘッドを開けました。

必ず部品にガムテープを貼って番号を打ち元あった位置に元の部品が戻る様にするのです。
彼の説明では同じ部品でもその取りつけ位置に当たりが付いているので元の位置に戻した方がよいそうです。

エンジンオイルをきちんと交換していたでしょう、全く問題ありませんと言ってくれました。


エンジンの吸気・排気バルブを取り外す為にその上をしっかり押さえ込んでいる強力なスプリングを締め付ける特殊な工具を使って抜き取る時も、
ある程度やって見せて、後は僕にやらせてくれました。

それら抜き取ったスプリングやスプリング止めやバルブなどは番号を打ってそれぞれのセットで小さいプラスチックボックス6個に仕舞いました。

その後バルブの擦り合わせをしました。
これも特殊な工具が必要でした。
小さい時からずっと買い溜めたという特殊工具が次々に出て来ます。

それからカッターナイフの刃でエンジンヘッドの掃除です。


その後エンジンをチェーンブロックで吊り上げておいてエンジン底のオイルパンを取り外しました。

クランクシャフトのベアリングメタルを見る為です。
上下ワンセットで3セットあるベアリングメタルの内1つは僕がみても傷が付いており替えた方が良いなと言う感じでしたが、
せっかくここまでやったのだから全て交換すると言うことになった。

そこまでが今回の分解整備でやろうとしていた事ですが、

エンジニアのシェラ−さんはここまでやったらピストンを抜いてピストンリングを見てみましょうと言います。

僕はピストンを抜いたところをみたことがなかったのですぐに賛成しました。

ピストンを上に抜いてシェラ−さんが作った特殊工具でピストンリングを抜きリングだけをピストンの中に戻しリングの切れ目隙間を隙間ゲージで計りました。

それも全く問題無いそうです。

その後ピストンのボア−上の方に付いたカーボンをこれも特殊な そのための工具で研いてくれました。


ロバート・シェラ−さん曰く、

「エンジン分解は部品の計測確認と掃除です」
と言うことでした。

計測にも掃除や研きにも特殊な工具や金剛砂やそれに合う油が必要です。

特殊工具は持ち合わせないしエンジンそのものを分解して組み立て動くようにすると言う技術を今から身に付けようとは思いませんが、
とにかくエンジンに関する知識が格段に上がったのは正解です。

今回のシェラ−神父のお導きにより、
エンジニアとしてきちんとやれる人かどうかを見極める目ができたと言うだけでも長距離航海者の技量の1つだと満足です。


僕はFRPの仕事では一番難しいとされる、自分でモールド製作・修理までやったことがあります。

木工でもヨットの船体も木造マストも作りそれらの修理も出来ます。

エンジンは誰も単独では作る事は出来ないでしょうが、
本当に修理ができる人かどうか人を見る目ができました。

何度もやったエンジン据え付けやオイル交換や燃料エアー抜きやプロペラシャフト関係は自分でやりますが、
もう一つ上のエンジンそのものの整備 入り口まで見えたところです。

今から組み立てて始動させるまでどんなになるか楽しみです。



 

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