2000/11/9 24 サバニについて

 ヨット設計における日本の草分け的な横山晃さんがサバニ船型を見つけてもう30年になろうとしています。横山さんが早いヨットの船型を追い求めてやっとたどり着いた時には、既に200年以上前からサバニに代表される、ウタセやニタリなどの横山さんが発見したと思った船型の素晴らしい船が長い日本の帆船の歴史において、試行錯誤の上違った場所で、同時に存在していたのだそうです。そこで良く走るヨットの法則的な船型を横山船型としないでサバニ船型と命名したそうですが、私達沖縄に住まないヨット乗りにとって、サバニは遠い存在です。私は昔沖縄に行った時に、無垢材で出来たサバニを見ましたが、どうしてこんな巾の狭い船がヨットの船型に取り入れられたのか、サバニ船型が何の事だか全く解りませんでした。


 私が知る限りでは、横山サバニ船型の大きな特徴はバラストを除くキールラインの一番深い点がヨットの先端から2/3くらいの所に有る事です。つまり一番抵抗の大きい所が全長の半分より後ろに配置されています。今までの多くのヨットではその点は全長の半分位の所か、それより前に有りました。そこが横山さんの言われるサバニ船型のヨットと他のヨットの大きな違いなのです。さてその事は何を意味するのだろうと考えてみた時、私は魚を思い浮かべました。魚は主な推進力を尻尾の振りで発生します。プロペラの付いた動力船と同じで、全体の抵抗を後から押して進んでいる事になります。急旋回や瞬間的な移動を強いられる沿岸の魚は頭でっかちで、回遊する長く泳がないといけない魚が頭が小さくて胴体部分が大きいと言うのもうなずけます。原油を運ぶタンカー等は細長いただの箱の様です。ところがヨットは帆で進むのですが、決して押されて進むのでは無く、引っぱられて進んでいるのです。登りの時は勿論飛行機の翼と同じ様に揺力によって引っぱられて進みますが、追っ手の風の時でさえヨット全体で見るとセールの力は船体抵抗を引っぱる力なのです。殆どのヨットはセールの力点と船体重心の点はセールの力点の方が少しですが前に有ります。それをもっと引き離す様に進んだ時の抵抗の位置を船の後ろに持って来たのが横山サバニの船型ではないかと思う様になりました。腕の良いヘルムスマンが24時間舵にへばりついておれるなら船自身の持つ直進性はそんなに問題にならないでしょうが、いずれにしろ舵を切ると言う事は船にとっては行き足を止める抵抗を発生させていると言う事です。舵を切らないでなるべく少ない抵抗でヨットを直進させる船型が横山サバニ船型だと思う様になりました。


 もう一つ、サバニはカナディアンカヌーに非常に似ています。他の船に比べて非常に細身です。昔の帆走サバニには舵がなくカヌーのパドルの様な櫓で舵を取ります。しかも、その櫓は力学的に力が入れ易くて舵にもなリ易い、ベンドシャフトバドルの様に支点になる部分で少し前方にベンドしているのです。今の沖縄では帆走サバニは殆ど無いし、その帆走技術は難しいものと聞きます、もし再現されたとしても一度失われた技術はなかなか蘇る物では有りません。時代の流れとは言え惜しい事だとサバニ船型に憧れる私は思います。

下のようなメールを最近頂きました。(2005/05/29)

沖縄関連のサイトを覗いて、たまたま貴兄のコンテンツを読みました。
サバニの船形には船首に独特の工夫があります。 ヨーロッパ的なラウンドボト
ムの常識からは異様にしゃくれて見える船首部分が、実は本来舷側に流れてゆく
船首の波を船底に引き込み、あたかも自分の波に乗って走る様な状態にするので
す。 結果、排水形のアスペクトレシオを持つ細長い船体が僅かな風力でも容易
にプレーニングします。 だからあの舟は速く走れるのです。 貴兄がコンテン
ツの中で述べられていた抵抗の大きい部分云々は、この工夫によって生じたもの
と理解する方が自然だと思います。
横山師がこの船形を応用したディンギーで商業的に成功した例の一つに、三十年
程前に横須賀の関東自動車工業が生産した「シードスポーツ」があります。 希
代の帆走性能を持ちながら木造艇である為高価であったシーホースの後継艇を目
指して開発されたこの艇の船形は、まさに独特の船首形状を持つものでした。
かなりの俊足で乗り味も良く、現在でも別の造船所で新艇が作られ、全国組織が
活動しています。
御参考までに

気ままな湘南人

(2005/05/30)

熟達した乗り手の操るサバニがどの様な帆走をしたのか、想像の域を出ませんが、あ
るいは今のボードセーリングに近いものであったのかもしれません。 うちの近所で
も風速15メーターを越す時化た波頭を飛び交うウインドサーファーの姿が頻繁に見ら
れますが、南洋の荒波を縦横無尽に駆け回ったと伝えられるサバニも、人と舟と風と
が一体になって、常人の理解を越えた走りをしていたのだと思ってます。
かつて糸満の漁師はサバニを操ってハワイの近所まで出漁していた、と聞いています。
酷い嵐の時は自ら舟をひっくり返し、船体の下に潜り込んで波浪が鎮まるのを待った
そうですが、これはポリネシア一帯の外洋を渡る丸木舟に共通した航行技術?です。
いずれにせよ、自然とは人間が克服すべきものと考える科学思想とは別の感覚で操船
されていた事を忘れてはならないと思います。 サバニ独特の船首の波に乗って走る
船形は、女性を抱く様に海を懐に招き入れたい、男の衝動と情熱の産物なのでせう。

気ままな湘南人

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