2000/4/13 3 仕事としてのヨット製作

 仕事でヨットを作る様になってもう15年経ちました。


 先日の花見の席で木工作家と話をしました。どうもヨットの場合は性能が第一なので今までに良い舟として実績の有る設計図を買っていかにその通りに作るかと言う事が、作る人の腕と言う事になるのです。陶芸にしても木工にしても絵を書く様に自分がデザインしたものを買う人が評価して価値をきめるものの様です。家の大工や指物職人とヨット作りは似ている様です。生命維持に関係の有るヨットは家や家具よりもずっと責任は重いのですが、まさに機械を作る様にいらないものはそぎ落として、設計図の通りに作るのがヨット作りの腕の見せ所です。家や家具では買う人のわがままも大きく強度に問題が無ければ、多少は通るでしょう。ヨットの場合は「出来たものを評価するのは海で人では無い」と言う様な事を酒の席で言って、人を相手に創作活動を続けている木工屋さんに、ずいぶん態度がでかいと叱られましたが、本当にそうなのですから仕方が有りません。確かに、試される機会はその舟の一生の内に一度有るか無いかの事でしょうが、ダメとなったら乗っている人は命が無いのです。それなのに買う人は殆どの人が海の上でのあらゆる場合を想定して買う訳では無く、船内が綺麗だとか入り口の階段が5段も有るとか、外観が美しいとか、テーブルがチーク材で出来ているとか、下らない理由で大金を出す訳です。


 私はもうそんなにヨットを作る事が出来ませんので、出来るだけ沢山作ろうとは思うのでですが、要点だけを押さえた舟を作ろうと考えています。100年持つ様なヨットで無く3分の1の労力で30年持つヨットで充分だと思う様になりました。ヨット作りが仕事ですからどうしてもオーダーしたオーナーの言い分を受け入れないといけない事も有るのですが、それは図面に出ている以外の事で舟の性能に影響の無い所だけで、何を置いても性能は図面通りの物を作らないといけないと思っています。

2000/4/16
 私はそう考えるのですが、お金を出す人が皆そう考えるとは限りません。乗り手としての判断力を要求される様な危ない目に合った事の有る人は少ないし、色々な性能の舟を乗りくらべる機会も少ない訳です。それで、一番大切なそのヨットの持つ性能は二の次で見てくれを重視したり、設計重量をオーバーする様な物を積みたがったりする訳です。海の上であなたの命を守ってくれるのは舟の性能とあなたの船長としての力量と、強いて言えば少しの運です。それでもあなたは性能を無視した、人がうらやましがる為だけのピカピカヨットが欲しいですか?人と比べて勝った負けたと一喜一憂するレースに時間を割きますか?皆で渡れば赤信号も恐くないとばかりに、大勢の人とわいわいガヤガヤやっていたのでは、あなたのヨット乗りとしての腕は上がらないのです。海を見、風を感じ、星を友とする、日々の生活を離れて自分と自然だけの時間を持ちたい人の為の、性能重視のヨットを作る事が出来たら私は幸せです。ヨットの性能は何時、誰が、何処で、どのように乗るかで必要な物が違って来る訳ですが、基本的な所はどんな場合でも外してはいけません。風を利用して少人数で楽に最大限の水線長速度が出せないといけないし、クロスホールドからランニングまで圧倒的な直進性能は、乗り手の体力と判断力を温存します。軽くて剛性が有り楽にスピードの出せる舟は、楽に危険を回避する事が出来ますし、重かろう強かろうの舟よりも波の衝撃が少なくて、乗り手も楽です。そんな舟を作りたいと思います。

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