〔2001/5/12〕外洋帆走の珍経験-2(海の香り)

 この連休に都会の人が遊びに来て、海の広場に泊まりました。いわく、[海の香りが凄くする良いですね。海に来ているという感じです。] というのを聞いて思い出しました。

 実は海には香りはないのです。海の香りと思われているにおいは、海岸に打ち上げられた海草やその他の海生生物の干からびたにおいなのです。

 外洋を長く帆走しているとひどく匂いに敏感になります。殆ど何の匂いもない回りですから、船内の匂いも外から入っていくと気になります。
 風上何十マイルも沖を走っている本船の排気ガスの匂いが気になるのです。まずは排気ガスの匂い、続いてマストが見え、煙突が見え、それからブリッジが見えてエンジン音が聞こえその後船体が水平線から浮かび上がってくるという見え方です。
 地球は丸いというのを体感できると同時に、全く匂いのない所では人間の嗅覚もまだまだ捨てたものではない、ちゃんとレーダーの役目を果たすのだと言うことを知りました。

 サンフランシスコは都会の匂い、メキシコのアカプルコは乾いた干し草の匂い、ガラパゴスは緑の匂い、マルケサス諸島は色んな果物の匂い、最悪は日本の車の排気ガスと工場の排気ガスの混じった匂いでした。入港3日前に匂いはじめ、豊後水道のど真ん中に入ってきたときにはとんでもない匂いになっていました。
 入港してから1週間 何も悲しくないのに強烈な刺激で涙がこぼれ続けたのです。

 匂いの嗅ぎ方は、犬が遠くの匂いを嗅ぐときと同じで、鼻を思い切り持ち上げて首を後ろに倒してくんくんと匂います。匂いは五感の中で一番慣れやすいものだそうで、どんな強烈な匂いも5分もそれを匂っていると最初の強烈さは薄れます。そうならないと次の匂いが嗅ぎ分けられないからかもしれません。


 何も匂いのない海の上で最初に嗅ぐ微妙な匂いは、それを嗅いだことのあるものにしか解らない人間の鼻の原始の働きを解らせてくれます。

 第六感 なんて事を言いますが、もしかしたらそんなのもあるのかもしれないなと思うような経験を外洋帆走者から聞くことは良くあることです。私は経験したことがありませんが、まだまだ訳のわからないことが海には多いような気がしています。

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