57 造船所 2002/04/21)

私の仕事は船大工で、
「池川ヨット工房 」というのはヨットを造る造船所です。

どうして造船所と呼ばないかというと、それほど大きい船を造る気はないからです。
シングルハンドセーラーに似合いの 小さいが宝石のように輝く性能の船を造るつもりです。
(池川ヨット工房で造る事が出来る船は32フィートまでですが、
そんな大きな船に1人で乗れる腕の人はそうそうは居ません 。 普通は27〜28フィートが最適)
やはり造船所よりもこぢんまりした 工房という名前がふさわしいように思います。

私の知っているヨット造船所は大抵 池川ヨット工房よりも大きいところなのです。

どこも歴史があり昔造船用材として不可欠だった根曲がり材のケヤキとか
大きなチーク材の固まりとかがそのあたりにごろごろ転がっている、
そんな造船所の風景を思い出します。

どこの造船所も頭領だけが把握している訳のわからないものがあちこちに雑然と置いてある、
どうしてそうなるのか解りませんが、
必要なときに必要なものを魔法のようにどこからか見つけだしてくるのが 頭領でした。

でも今ではそんな造船所も見る事が出来ません。
FRP船の広がりで 今ではヨットというとFRPと思っている若い世代も多くなってきました。


池川ヨット工房は木造もFRPも何でもござれなのですが、
他の私が知っている昔の造船所に比べて随分きれいに整頓されています。

1人でやっていると言う事もあるでしょうが、
いちいち片づけながら仕事をしないと それでなくてもこんがらがっている頭がますますこんがらがって、
何が何だか訳がわからなくなるおそれがあるので、
一生懸命片づけようと努力します。

色々な人が池川ヨット工房を訪ねてきます。
昔の造船所を知らない人ばかりなので、
何にもない私の工房をそんなに不思議とも思わないようです。

ストック材料は出来るだけ少なくしています。

木材はマホガニーの板材とチークの板材、
FRP材料は3液性のビニールエステル樹脂とエポキシ樹脂一缶ずつ、
あとはパテを造るためのマイクロバルーンやアエロジル、
それとウレタン塗料が各色一缶ずつ 、
それくらいが主な材料在庫です。

工具は もうこれ以上いらないと言うくらい揃えたつもりでも、
たいしたことはありません。
ヨットを造るための道具なんて家大工や鉄工所などと比べると圧倒的に少ないと思います。
家具や建具を造る木工所でも「池川ヨット工房」よりは良い道具を沢山もっているでしょう。

早さや正確さを追求する私はエアーツールなども沢山持っていますが、
所詮 使うのは人です。


造船所の善し悪しは造る作品で決まります。

頭領がどのくらい図面通りに正確に造る事が出来る腕を持っているか、
木と接着剤と塗りとステンレスの部品の知識があり 面倒でもきちんと正規の施工をしているか、
図面にない部分は海にマッチしている施工をしているか、
(乗り手としての作り手が造った船は 角の面取り一つにしても違います)
その他の部分はオーナーの望みに答えられるか、

私が何かの都合でよその造船所にヨットを発注するような事があると仮定したら、
まず日本中の造船所が造ったヨットを見比べてみるでしょうね。
見る目がなければ、
有る人にに同行してみてもらいます。

プロは値段ほどの仕事をします。
物には値段はないのですから値段が決まってから物が出来てくるオーダーメイドのヨットは、
当然値段ほどの物になるでしょう。

安いヨットを世に広めようと言う考えも成り立ちますが、

最終判断は海がしてくれるという部分があるヨットでは
これは絶対に譲れない 歴史に培われた部分というか 帆船2000年の歴史、
オーナーの都合や作り手 の浅知恵では変えていけない所があると思います。

残念ながら日本には木造船の造船所は数えるほどしかないのです。

 

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