2000/5/10 6 ヨットを作る為の工具について

 ヨットを作るには工具が必要です。木を切ったり、削ったり、研いたり、押さえたり、穴を開けたり、道具がないとできない事がたくさんあります。昔は殆ど手の工具でやっていたのですが、だんだん電気の工具になり、今では殆どの仕事を工場でする時はエアーツールでこなす様になりました。働きの割に一番高いのは手工具ですが、これは使いこなせる様になるまでに相当熟練が必要です。鉋やノミの刃を研ぐのでさえも、普通にやれば1年くらいは充分にかかります。最近はやらなくなりましたが、私が若い頃の船大工はノコの目立ても殆ど自分でやっていました。初めは手工具から入りますし、それが使えなかったら今でも困るのですが、もう殆ど手工具は使わなくなりました。90%以上の仕事を、電気工具やエアーツールでやります。そうなった理由は、その方が早くて疲れないからだと思います。特に繰り返しの単純仕事の様なのは、手工具では疲れるばかりで何の御利益もありません。運動になると言っても同じ筋肉ばかり使うので片寄った体型になったりします。どうしても機械を使う方法を思い付かなかった少しの仕事だけに手工具を使う事になります。


 さて機械の工具ですが、普通木材は板状に挽いた物を買うので、それを原図通りに加工して部品を作る所から工具を使う事になります。小型のバンドソーや丸ノコやジグソーを使って切り出します。それをスムーズにして厚さをそろえるのがプレーナーです。大型の工具としてはバンドソーとプレーナーと定盤付き丸鋸が有れば充分でしょう。後は皆手で持てる小さな工具ばかりです。組み立てになるとドリルやドライバーが必要ですし、成型にはサンダーやベルトサンダーも必要になります。それぞれ大小や用途によって少し変わった工具も必要になります。しかしいずれにしても大した道具では有りません。100ボルトの普通の工具屋に有る普通の道具です。プロになる為に揃えても100万円も有れば買えてしまいます。その上にパワーと軽さでエアーツールを揃えてもそれも必要なだけ買って200ボルト7馬力くらいの大きなコンプレッサーまで入れて100万円も有れば充分揃います。その上に塗料の吹き付けの道具です。FRPの道具はお話にならないくらいの安い金額です。機械を使うと早くて楽に仕事がはかどるのですが、手工具と違い怪我をしたら大きい怪我になります。たいていの人が安全装置を外して手押し鉋で指先を削ったりしています。私も手で持って使う丸ノコで左親指を落としかけた事が有ります。それ以来小さな丸ノコを使う時は極度に緊張します。できれば他の工具でやる様にしています。


 まあざっと見てヨット作り全ての工具に必要な代金は300万円くらいでしょうか?他の仕事にくらべると安い物ですね。機械加工とかだと1台の工具で300万円などと言うのはざらに有ります。それもヨット作りの場合、一気に揃える必要はなくて、私のなど必要に応じて15年間にだんだん揃えて行った物ですから、大して負担には思えませんでした。


 そんな多種多様の小さな道具を使ってヨットを作るのですが、同じ事の繰り返しではない色々の仕事があります。最適の道具を選び楽にスマートに初めての仕事をこなすのは結構面白い物です。次々とアイデアが湧き、時には治具まで作って楽に綺麗に仕事をこなそうとします。もの作りの面白さは作る事だけでなく、どうやって早く上手に作るかにも有る様に思えます。ヨットは帆走する為の物ですが、それ以上にそこに生活全体が有るので、何から何まで考えて工夫して作って行くのは最高に面白い事だと考えています。難題が与えられると何とかしてそれを克服しようと頭を使い、知り得る限りの道具を使って解決しようとします。その面白さに取り付かれたのが船大工かも知れません。

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