84 ウエスト工法(2003/12/11)
ほとんどの人が間違っているウエスト工法について私が知っていることを書いておきます。
ウエスト工法の船と従来の木造船との大きな違いは、
真水と木を接触させないようにして、
栄養のある木にバクテリアを繁殖させる要素(真水)を遮断し木を腐食しない様に保つという点にあります。
それを可能にした現在考えられる最高の接着方法(エポキシ接着)と低粘度エポキシの塗装、その工法をWEST工法と呼びます。Wood(木)Epoxy(エポキシ)Saturation(しみ込ませる)Technique(技法)の略です。
ここまでが今まで日本で唱えられてきたWEST工法です。
横山晃さんが20年近く前に自作者に向かってこの考え方を発信し、
100年保つ木造船を作れとハッパをかけたのでした。
ところが相変わらずステンレス木ビスやステンレスアンカーファースト釘を船体木部に残すような工法だと(ストリッププランキング工法という方法で小さい棒状の角材をアンカーファースト釘とエポキシを併用して積み上げて船体を作るやり方)良く保って20年まともな強度を保てば上出来という感じになるのです。
金属が温度変化から木質内部の水分を結露させては自分の回りに集めて来るので、
たとえステンレスでも金属の回りの木部から腐り始めるのです。
ステンレス木ビスをエポキシ接着と併用するような工法は、
丁度リベット止めがボルトナット止めに変わった様に全く同じ止め方なので簡単に移行したのとは訳が違います。
エポキシを全面的に信用できるほど使っていない古い船大工は昔からのステンレス木ビスやボルトナット止めとエポキシ接着の併用から脱却できなかったのです。
その点 木と木の間に防水ペイントを塗った和紙を挟みリベット止めするような工法の経験のないアマチュアビルダーの方が、
エポキシの使い方を完全にマスターしない内から接着工法に移行するのは早かったのです。
そこでアマチュアビルダーの造った船に接着ミスから一番力のかかるバラスト近辺の接着剥離浸水事故が何艇も見られました。
その後横山晃さんの木造艇の図面はキールと外板の接着面積が大幅に増やされ、
その問題は一応の決着を見ています。
エポキシの取り扱いはその細かいルールをきちんと守らなかったら、
強度は半分以下になります。
接着の後 試験片を沢山たたき壊してみてその事を知りました。
低粘度エポキシの塗りは木と真水を遮断すると言いながら、
いくら染み込ませたつもりでも小口(木の切り口)で10ミリ程度、
普通の木の表面だとペンキの塗りと何も変わるところはありません。
色々な木に色々な塗り方で何度も何度もメーカーや粘度の違うエポキシを塗ったのを切ってみたのです。
それではウエスト工法の言うところの木と水の遮断というのはどうなのだという考えから、
WEST工法発明のGougeon Brothers,Inc.の本を3冊取り寄せてみてみることにしました。
多くはウエストシステムに使用するエポキシ樹脂がどんなに良いもので、
接着には 又 塗りには パテとしては ラミネートにはどう使用するかというハウツー本でしたが、
読んで字の通りの
Wood(木)Epoxy(エポキシ)Saturation(しみ込ませる)Technique(技法)
という事はほとんど言っていないのです。
1---メインの接着と、
2---それに続くフィレット(Epoxy fillet)のことと、
3---エポキシ積層(Laminating)のことが主な主張です。
4---又 部品取り付けのボルトを木に接触させないやり方も丁寧に書かれています。
Gougeon Brothersの主張する工法がが新世代の木造船だと確信し、
「萬丸」制作で思いきりそれらのことを忠実にやってみました。
そうすると本当に信じられないような 剛性のある船が出来上がったのです。
FRPでは絶対に出来ませんし、
今までの木造船では遠く及ばない硬い船体なのです。
もしあの軽さのままであれだけの剛性を出すとしたら
アメリカズカップなどの船に使われるカーボンプリプレグ工法という
炉と負圧コンプレッサーを使った最新のカーボンとエポキシとバック成型を併用するとてつもなく高価な船作り意外にには出来ないだろうと思います。
ところが木造船造りで他にはそこまでやる人が現れません。
未だにWood Epoxy Saturation(しみ込ませる)Techniqueだと信じて、
木の船に低粘度エポキシをぺたぺたと塗っているというのが
日本の木造船造りの現状なのです。
染み込ませることが出来ないエポキシをいくら塗り重ねてもヒビでも入ればおしまいなのです。
ところが最近オーストラリアやニュージーランドから本物の木造船が入ってきているのを知りました。
ちゃんとWEST工法の木造船というのは世界的には存在していたのです。
それらを見たときにやっぱり日本はヨット後進国なのだとつくづく思いました。
本物のウエスト工法を用いた船を造りたいというアマチュアビルダーや
もしかしたらやってみようと考えているプロの方にも、
私からの忠告があります。
エポキシ施工には必ず活性炭入りマスクを着用すること。
活性炭の入った吸収缶は必ず時間通り4時間で新しいのに取り替えること。
素手でエポキシに触ってはいけません。
肌を露出させてエポキシの仕事をしてはいけません。
これらのことは必ず守ってください。
接着用も低粘度エポキシもエポキシと名の付くものの硬化剤は特別に悪性の発ガン性物質なのです。