85 フィレット (2003/12/22)
West System における最大の特徴であるフィレットについてもう少し詳しく書きます。
Wood(木)Epoxy(エポキシ)Saturation(しみ込ませる)Technique(技法)
と言いながらほとんど木に染み込まないエポキシを
どのように使うと木で造った船が圧倒的な力を発揮するか 。
その秘密はフィレットにあります。
面と面の接着は根太材を先ず接着しておいて、
その根太材に板面を接着するという方法が今までの木造船造りのやり方でした。
ところがウエスト工法の船は面と面をいきなり切断面でT字形に接着するのです。
そしてその面同士が交わって出来たL字形の両側のコーナーに、
マイクロバルーンを混合した低粘度エポキシのRを付けるのです。
そのマイクロバルーンエポキシのRをフィレットと呼びます。
ウエスト工法を言い出す前に合板同士の長手方向の繋ぎはスカーフ繋ぎという方法で解決されていました。
板厚の12倍の斜め切り面同士を接着することにより、
接着部分以外と同じ強度を接着部分にも持たせることに成功しました。
その接着剤がエポキシに変わったことで圧倒的な接着力を得て短い棒は長く繋いで使えるようになり、
面積の狭い合板はいくらでも繋いで思うような大きさにして使えるようになりました。
そして古典的な根太を付けてその根だに合板を接着して止め付けるという方法は、
ウエスト工法におけるフィレットの発明で飛躍的な強度を得ることになりました。
接着面積をかせいで強度を出すという根太接着方法の考え方から、
接着が剥がれる前に現れるヒビを作らない様な力の逃がし方で 接着を保つフィレット接着は、
圧倒的なT字接着の強度を実現しました。
T字接着の角に根太を入れて接着したものをハンマーでたたき壊してみてください。
根太が小さいと立っている合板ごと根太が接着面で剥がれます。
大きな根太を両方の角に入れたものなら、
根太の上で合板が材料破壊を起こすでしょう。
ところが適当なサイズで入れられたフィレットは平たい合板への接着面からは剥がれないし、
立てた合板のフィレット終わりから上の動きを完全には固定しないで 、
フィレットが上に行くほど薄くなって居ることにより多少の動きは吸収します。
そんなに魅力的なエポキシフィレットなのですが、
今私が造っている32フィートくらいの船のあらゆる接着角にフィレットを入れるとしたら、
2ヶ月以上の余分な工期がかかり、
52キロの低粘度エポキシと10キロのマイクロバルーンと3キロのアエロジル(垂れ止め材)が必要になります。
そしてもっとも恐ろしいのが
硬化するまでは強力な発ガン性物質であるエポキシとの長時間のおつき合いでしょうか。
本物のウエスト工法が流行らない訳が解ります。
染み込みもしない低粘度エポキシを、
木にベタベタと塗ってウエスト工法だとお茶を濁しているくらいがよいのです。
知っていたとしても本気でマイクロバルーンエポキシフィレットを付けることを考えるのは、
金と時間と命と言う大切なものを最大限船に注ぎ込むことになります。
時間対効果、金額対効果くらいまでは許せますが、
命対効果は嫌ですよね。
そんなにガチンガチンのモノコックにしないでも 今までの木造船も手入れ次第では20年くらいは浮いてまともに走らせていたのです。
ここは大切だというキールと外板接合の角や、
バルクヘッドと外板やバルクヘッドとデッキの接合部分にフィレットを入れて圧倒的な強度を持たせるくらいで、
普通の船は今まで以上の堅さを出すことが出来ると思います。
デッキビームとデッキ材やフレームと外板材の接着は、
それぞれの部材がそれなりの強度計算をして出来ているサイズでしょうから、
フィレットは必要ないと思う考え方に変わっています。
やはりウエスト工法はウエスト工法なりの強度計算をされた図面を手に入れて施工するものでしょう。
軽くて硬くてピンポン玉のような木造船は世の中には存在しているのです。
今の日本の設計者が書いた木造船の図面ではウエスト工法の奥義は必要有りません。
20年くらいでデッキから雨漏れの真水が入りあちこち腐って朽ち果てていく
という今までの木造船でもオーダーする人は現れるし、
その方が造船所も沢山の船を造ることが出来ます。
家でさえも日本では100年持つ家はまれです。
今大手が受けて毎月のようにその当たりに建っている家は30年くらいの耐用年数しか見ていません。
家と比べても圧倒的に過酷な条件で使われる(放っておかれることもある)木造船が、
100年も保ってはいけないのではないでしょうか。
それでも私は後3年間は船造りの仕事をします。
20年の船から100年保つ船まで、
オーナーのどんな要望にも応えることが出来ます。
どこそこの造船所は高いとか安いとか言う話を聞きます。
ものには最初から値段はないのです。
売り手と買い手が値段を決めます。
私の造る船は 値段相応のものです。
安い船が欲しい人にはその値段の中で最高の仕事をすることが出来ます。
とことん良い船を望まれても、
やはりその値段に見合う良い船を造ることが出来ます。
私が がんととして譲れないのは海にマッチする船かどうかと言うことだけです。
オーナーの考えも設計者の考えも施工者の考えも海にマッチしなければ夢で終わります。
最低限出航したら帰ってくることが出来る船であって欲しいと思っています。
「海の広場」の最初の方に書いたように私の仕事は夢を売るのが仕事みたいな所があります。
どうぞよい夢を買いに来てください。
もてる技を総動員してあなたの夢の実現に向けるお手伝いをしたいと思います。
ウエスト工法のフィレットから大分話が脱線しました。
どうも今私の木造船造りはマイクロバルーンエポキシフィレットで一つの区切りを迎えたようです。
あれもこれも全部体得した上で次の難題を解決していく方に頭が向かうようです。