67 エポキシ大工 (2002/12/22)

私の唯一知っているプロの船大工は岩手県の小成さんという人です。

兼松江商と言う商事会社がが30年くらい前に手を出した
キャナルシリーズというプラスチックのヨットの木型を全て作った人です。

そのころの工場には30人くらいの人が働いていましたが、
私の目にはヨットを実際に作っているのは小成さん一人だけとしか映りませんでした。

私も含めて他の人がしていることは木成さんが作ったヨットのコピーでしかなかったのです。

小成さんは日本のヨット造船が最盛期に
その当時有名なヨットの造船所を渡り歩いて技術を習得した渡り職人です。

怪我と弁当は自分持ちというような職人の世界で、
技術を求めて日本の最高峰と言われる造船所を渡り歩き、
最後が兼松江商でのヨット制作でした。

小成りさんは手が早い 作品が綺麗 何でもヨットについて良く知っている
ヨットにも乗るヨット大工でした。

その後私が見たのはアマチュアビルダーたちや、
そこからプロに転向した自称プロのヨットビルダーたちです。

しかし、本物のプロは仕事のスピードと精度がまったくちがう
その当時見る目を持ち合わせていない私が見ても、
小成りさんの仕事は何とも気持ちの良い仕事ぶりだったのです。


昔の木と木の接着は銅釘の かしめ やステンレス木ビスやユーロイドや極少量のエポキシなどでした。
エポキシ接着剤は30年前には普通はほとんど使われていませんでした。
だから精度の高い接着面を作っておかないことには接着は出来なかったのです。

ところが私たちがアマチュアビルダーとして木造ヨットを作り始めた20年くらい前には、
日本製でもエポキシ接着剤が出来てきたし、
外国製なら ものすごく使いよいものがでてきました。

エポキシ接着剤なら接着面の精度を上げておかなくても充填が効くのです。
少々の隙間は接着剤で埋めることが出来ます。

今私が作っている木造ヨットはトリプルプランキングという薄い板の三枚重ねの構造で船体が出来ています。
口の悪い友人はエポキシ大工だから出来る工法だと言います。
実際にそうなのです。
エポキシが使えるからやれる工法です。

昔ながらのシングルプランキングなどはエポキシを使うような工法ではありませんし、
ストリッププランキングなどもエポキシを使うことを前提の工法ではありますが、
あまりにも接着面積が少ないのでアンカーファースト釘でとなりの材木との接着を保とうとした
いわゆる古典工法が接着工法に変わっていく過渡期のどっちつかずの
アマチュアビルダーでは少々難しい工法なのです。

その点エポキシ接着のダブルプランキングやトリプルプランキングは
エポキシ接着さえ完全にマスターすればこれくらい楽な工法はありません。

シングルプランキング工法やストリッププランキング工法のように
失敗したらただのザルでそのまま浮かせばどんどん水が入ってくる
と言うようなことはトリプルプランキングにはないのです。

広い面積の接着を3層も重ねていますから、
もしザルになっても
目の細かいザルが
水漏れのおそれのある目の部分を違えて3枚重なっているようなものです。

至って荒っぽく作っても、
エポキシ接着にさえ気を使えば、
失敗はきわめて少ない工法なのです。

私のようなアマチュアから入ってきたヨットビルダーの人たちが、
どうしてエポキシの完全な接着技術やエポキシの塗りや 吹きつけ技術を身につけて、
エポキシ大工と言われても良いから、
完全に水と木を切り離したヨットを作ろうとしないのか
不思議でなりません。


塗装を塗り重ねるのにも意味があります。
どんなに上手な吹きつけでも塗膜には小さな小さなピンホールが必ずあります。

それを何回も塗り重ねることによってピンホールの位置を重ならないようにして、
徐々に表面から下まで達するような通路を塞いでいるのです。

ダイニール加工の様に一度に厚味をあげる表面保護は
確かに船食い虫には有効ですが、
水を遮断すると言うことにおいては塗り重ねの方が大きな意味があります。
だから手間でもサンディングを繰り返しながら面倒なエポキシやウレタンの吹きつけをやるのです。

エポキシ大工は木工の素晴らしい技術を持つ代わりに、
エポキシに関しては最高の知識とそれを使う技を持ち合わせています。

私は自称 エポキシ大工 です。

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